『まちと私の小さな写真旅』

講師 山崎エリナ

こちらの写真は、富岡町や浪江町から避難されている皆さんが撮られました。
富岡町で開催したワークショップは、富岡町観光協会主催「富岡町魅力再発見フォトコンテスト」とのコラボ企画。
参加した多くの方は、避難先から久しぶりにふるさとに駆けつけてくれました。
町内をバスで巡りながら思い出話に花を咲かせ、懐かしい風景をカメラに収めました。

浪江町から避難された皆さんが暮らす本宮市で実施したワークショップでは、みんなで外に繰り出しお寺や駅、小学校、新幹線など、自由に撮影しました。
会場に戻ると、お気に入りの写真を印刷し、タイトルをつけてお披露目です。
「どんな思いで撮ったのか…。発表する方の言葉が写真を深めるので、写真を見る方も思いを重ねてくださると思います」と山崎先生。

発表が始まると、皆さん温かいまなざしでお話に耳を傾けました。
小学校時代の思い出を校庭のジャングルジムに重ねて「昔の思い出」とした方。
自宅近くにたくさんいるというカナヘビに「友達」と題をつけられた方。
塗られたような濃い青空を背景に咲く一輪の山茶花に「ひとりぼっちの山茶花」と題をつけた方もおられました。
隣で聞いていた山崎先生は、「山茶花が『私を見て』と言っているみたいですね。よく見るとまわりに蕾がたくさんありますね」とコメントされていました。

写真を前にポツリ、ポツリと紡ぎ出される言葉は、耳を澄ますほどその方の内面を語る、表現するナラティブ(物語)となりました。
言葉は、背後の記憶を色濃く立ち上がらせるだけでなく、もしかしたらこれまで語ることがなかったかもしれない物語まで紡ぎ出しました。
安心して語り、聞くことで、参加者それぞれの物語も更新され、新しい物語が始まるきっかけになったり、異なる記憶であっても写真という共通のワークを介すことで、一つの大きな物語となって心を潤していく…。
今回の写真のワークショップは、そんな意味と力を持つ時間になったのではないかと思います。
撮り手がどんな思いでシャッターを切ったのか、ぜひ写真とタイトルを見ながら想像してみてください。

作品一覧

渡部 太一

池田 達郎

INSTRUCTOR

兵庫県出身。阪神淡路大震災後に渡仏。パリを拠点に世界35カ国以上を旅して撮影。帰国後、国内外で写真展を多数開催し、写真集や雑誌等で活躍中。近年は、トンネルや工事現場などのインフラメンテナンスをテーマに撮影に取り組み、暮らしや国土を支える土木関連の取り組みを撮影した写真集で注目を集める。2020年7月2日の福島民報でも写真集に収められた川俣のトンネル工事の写真の記事が紹介されるなど、本県ともつながりが深い。

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